株式会社ヘンリーで2025年3月からVP of Engineeringを務めている戸田(id:eller)です。任命から3ヶ月経ったので現状をまとめつつ、今後の見通しなどについてまとめたいと思います。
VPoEとVPoTの違い
私は1月からVP of Technologyも務めており、現在は兼務している状況にあります。本題に入る前にこれら2つがどう異なるか、ヘンリーではどう考えているかを整理してみます。
VP of Engineering(VPoE)はエンジニアリングについてステークホルダーに説明責任を持つポジションであると定義しています。エンジニアリングとは工学ですから、VPoEは工学的アプローチ、特に組織づくりや開発プロセスを見るわけですね。ヘンリーは組織規模を拡大している最中で、またフルリモートを特徴のひとつとしている会社でもあるため、組織づくりや開発プロセスは投資する価値が高い状況です。個々人が裁量を持って自律的に働ける環境と、周囲とのシナジーを活かして組織としてのアウトカムを最大化していける環境の双方を実現することが求められています。
対してVP of Technology(VPoT)は技術についてステークホルダーに説明責任を持つポジションであると定義しています。製品としてのHenryがどう技術的な選択をしてきたか、これからどう対応を進めようとしているか、を見ることになります。Henryは病院向け電子カルテとしては前例のないクラウドネイティブ実装であり、業界に対してクラウドネイティブの強みや運用、セキュリティについての考え方などを継続的に発信していくことも求められています。
ひとことで言えばVPoEが組織体制、開発プロセスを、VPoTがサービスの実装詳細やその仕様を見ると思えばよいでしょう。いずれも製品本部に留まらず全社的に横断した機能として期待されています。直近は次のような活動をしてきています:
- VPoE
- 部室長向けオンボーディングないしコーチングの企画と実施
- 行動規範, 等級制度ないし評価制度の検討
- 大きくなったstream-alignedチームの分割
- VPoT
- お客様に提示するセキュリティホワイトペーパーや仕様書の作成
- SIerやネットワーク事業者に提示する稼働環境仕様書の作成
- noteでの情報セキュリティ関連情報の発信
本日はVPoEの部分にフォーカスして、ヘンリーが抱えている課題とその対策について述べていきます。
ヘンリーにおけるエンジニアリングの課題
私は3代目のVPoEですから、先達の学びを活かすことができます。ということで歴史の振り返りから始めましょう。
歴史的背景
私の前にも id:shenyu_cyan さんと id:Songmu さんがVPoEとして活動されています。その背景についてはダブルVPoEについてのブログ記事が参考になるでしょう。
大きく分けて「圧倒的に強い開発組織を作り上げる」「強い開発組織の改善力を会社全体に展開する」の2つのミッションを持っていました。現在のVPoEも同様に双方のミッションを持っていますが、後者の一部は組織開発や経営企画といった他部署でも取り組まれています。このため今回は論点を単純化する目的から、後者は割愛します。
「圧倒的に強い開発組織を作り上げる」ために必要な課題は3つ、採用とロイヤリティ、そしてエンパワーメントです。そして採用が現状もっとも難しいという認識を持っています。

採用の強化が最優先課題である
ITシステム開発の世界では「人月の神話」に代表される重要な知見があります。人を増やしてもシステム開発は早くならないということですね。「カップラーメンを3人で作っても1分ではできない」との説明もされます。ですからプロジェクトの進捗が悪いからと言って、いたずらに人を増やすことには慎重であるべきだと考えています。
しかしこれを踏まえても、ヘンリーのエンジニア組織はやるべきことに対して小さすぎます。理想ベースで考えると7〜8チームはあってもいいだろという体感がありますが、現状は合計4〜5チームで、まだ足りません。プロジェクトの進みが遅いというよりは、人がいないのでプロジェクトを始められない状況と言えるでしょう。
せめて6チームに増やすことを年内でやりたいのですが、そうするとまだまだエンジニアやDE、QAやデザイナーなどの採用を継続的に行う必要があります。採用だけが解決ではないのは当然で他の施策も並行で進めますが、組織としてできることを増やせるのが採用の良さであり、長期的に投資をしていくべきだと考えています。
行動指針を「あたりまえ」の存在にしたい
ヘンリーでは「理想駆動」「爆速アウトプット」「ドオープン」をバリューとして掲げてきましたが、先日これをブラッシュアップした新しい行動指針が誕生しました。

私は行動指針は周囲を巻き込むための素材であり、成長の種であり、ロイヤリティの源泉であると考えています。新しい行動指針が私たちの中で「あたりまえ」になれば、我々をひとつの組織としてまとめ社会課題に挑戦させてくれるでしょう。一方で行動指針は我々ののびしろを規定するものでもありますから、今現在はできていないところも多々あります。その事実を認知し、我々の日々の行動に浸透させて、「あたりまえ」にしていく過程を回していくことがVPoEとして重要であると考えます。
なかでも特に「燃える理想」「爆速アウトプット」がきちんとできるスピードある組織や仕組みをつくること、「自分起点」や「ワンチーム」を支える心理的安全性を醸成すること、が重要です。これには日々の1on1やブログでの発信、経営会議での議論など様々なアプローチが有効なはずで、戦略的に臨んでいく必要があります。
リーダーシップを握り合う組織の土台としてのミドルマネジメントが必要
書籍「チームワーキング」で推奨されている「目標を握り続ける」リーダーシップを推進するには、マネジメントだけではなく従業員それぞれが自分起点で行動して周囲を巻き込んでいくことが必要となります。マネジメントが率先してリーダーシップを発揮することも重要ですが、他にもチームに対して期待値を伝えたり、発言しやすい環境を整えたり、挑戦の障害を取り除いたりと様々なアプローチが効果的です。しかし製品本部ではCPOが部室長を兼務する体制が続いていた関係で、こうしたアプローチを継続的に取る余裕がない状態が続いていました。
自分起点での行動がしっかり回るとみんなのモチベーションも上がるし、結果として生産性も影響されるとは思うんですが、そのためには心理的安全性に加えて失敗を奨励する文化が必要になります。しかし、これらは資源的・時間的な余裕がないとなかなか生まれません。人が足りない・時間が足りない製品本部では特に難しいやつだという認識を持っています。
施策
ここまででVPoEとして認識している課題を述べてきました。ではこれらの課題に対し、VPoEとしてどのような打ち手を取ってきたかをご紹介します。
部室長オンボーディング
行動指針を浸透させ、心理的安全性を醸成し、失敗を奨励する文化にするためには、マネジメントが重要です。特に私たち製品本部ではつい最近まで部室長専任が存在しませんでした。ですからマネジメントが行動指針を率先して行い、チームメンバーに目を配り、多様なアプローチで組織を変えていくためには、マネジメントの育成が不可欠だと考えました。ヘンリーの従業員は自ら学べる方が多いとはいえ、経営会議が期待するマネジメントの役割を部室長にしっかりと伝えなければ、組織として目指している姿には近づけないはずだからです。
ヘンリーの経営会議メンバーは知識創造企業や戦略の要諦などを読み合わせて議論の土台としていますが、この施策では知識創造企業のミドルアップダウンマネジメントを意識しました。ミドルマネジメントが機能するためには理想と現実世界の間に横たわる矛盾を解決するだけの情熱や裁量が必要になりますが、それを正しく活かすための仕組みを経営会議と管理本部とで整備してオンボーディング化しました。

ただ最初は前述の通りそもそも部室長専任が存在せず本部長が兼務していたので、まずは部室長を任命して権限委譲することの検討から始まりました。その過程で大き過ぎるstream-alignedチームを分割していますが、そのために必要なドメイン分割の難しさは以前の記事でも紹介していますのでここでは割愛します。
このオンボーディングとフォローアップが今年もっとも重要な施策です。また部室長と部室員のコミュニケーションはまだ手探りというか横断的な打ち手は存在しないので、1on1のやりかたとか心理的安全性の作り方とか失敗を奨励する文化についてとかは、これから進めていきます。
採用をドライブしていく
採用を進めるうえでの課題はいくつかあると思いますが、まず会社そのものが認知されていないこと、次に医療というドメインに抵抗感があること、そして何をやっているのか製品本部の実像が伝わりにくいことがあると考えています。いずれも体外的な情報発信を進めていくことが必要だと考えており、この技術ブログ、note、ならびに各種イベントでの情報発信を進めていきます。
採用はまさにみんなで実践するものですが、VPoEとしてはその実践を回し始めることをしっかりやろうと思っています。現在はコンスタントにブログを出すこと、発信したことのない人を無理なく巻き込んでいくことの2つに絞って活動しています。直近ではQAの方向けのイベントを企画しておりますので、関心をお持ちの方はぜひご参加いただければと思います。
行動指針の浸透を進める
行動指針をSlackでじゃんじゃかつぶやいたり、他の従業員の書き込みに行動指針絵文字で反応したりして、新しい行動指針あったわーというリマインドをかけていっています。また弊社には経営会議から情報を共有する仕組みはもちろん、社内でベストプラクティスやグッドトライを共有するDemodayや感謝を伝えるための #all-praise チャネルなどもありますので、それらを通じても行動指針を浸透させていきます。
製品本部全員と1on1をする
いろいろと施策を打ったところで完全はないので、こまめなコミュニケーションを続けてセーフティネットとすることが欠かせないと思っています。特に燃え尽きの発見や部室長のカバーは、直接話すことでしか実現できません。
私たちのエンジニアリング組織は既に40名近い規模の組織になっていますが、少なくても四半期に1度は一人ひとりと1on1をしていきます。
まとめ
3代目のVPoEとして「圧倒的に強い開発組織を作り上げる」ために、部室長オンボーディングや採用を、行動指針の浸透を心がけています。2025年下期においてもこれらを継続するとともに、より自律できる組織を作ったり評価制度を検討したりといった施策を打っていくつもりです。
私たち製品本部には中小病院の皆さんの課題解決のため、やりたいと考えていることがたくさんあります。今いる従業員みんなに活躍してもらうことも、ファンを増やして従業員となってもらうことも、どちらも実行してエンパワーメントフライホイールをくるくる回していきます。事業やチームに関心をお持ちの方は、ぜひ採用サイトも覗いていただけると嬉しいです。