VP of Engineeringの id:Songmu です。冒頭に、大事なお知らせですが、今週土曜日(6/22)に開催される、Kotlin Fest 2024にヘンリーはスポンサーをしています。スポンサーブースも出展しますので、是非お立ち寄りください。私もいます。
また、Henryの開発者の一人でもあり「Kotlin サーバーサイドプラグラミング実践開発」の著者でもある、 @n_takehata が、2024年版 Kotlin サーバーサイドプログラミング実践開発というタイトルで登壇します。是非こちらも聞きに来てください。
ヘンリーも社員数が増えてきたこともあり、このスポンサーを機に、イベントやコミュニティ参加に関する制度づくりを始めました。また、それらに参加する社員も増えて欲しいと思っています。そのために、改めて、社員がイベントやコミュニティに参加する意義を考え直して整理した内容が本エントリです。
前提として、頻繁に技術勉強会に参加していたり、技術コミュニティの運営に関わっているような、社交的でトレンドに敏感な開発者が社内に一定割合必要だと考えます。そういう開発者ばかりになるのが良いとも思いませんし、そういう活動に興味がない人もいても構いません。とは言え、開発者コミュニティとつながることは、組織と個人、両面にメリットがあるため、促進したいと考えます。
イベント参加に対する期待
一般的に、社員の開発者イベント参加に対する、わかりやすい期待は以下の3点です。
- 開発者の技術力向上
- 専門領域の技術力を高め、社の生産性の向上に繋げる
- 技術進化と開発戦略の一致
- トレンドのキャッチアップとエコシステムとの協調
- ファンを増やす
- 会社の認知率や好感度を向上させ、人材採用や自社プロダクト購買に繋げる
それぞれの観点で、まずは受動的に関わるところからで構いませんが、能動的に関わることでより効果を高められます。
開発者の技術力向上への期待
開発者の技術力向上への期待は一番わかりやすい観点でしょう。
まずは、情報や技術を学んで社内に持ち帰るというところから始め、ゆくゆくは登壇等で自ら情報発信をして広くフィードバックをもらって成長や改善につなげられると良いでしょう。
技術進化と開発戦略の一致への期待
1点目と似ていますが、技術トレンドのキャッチアップとエコシステムとの協調という観点も重要です。
すべてのソフトウェアを自前で作ることは実質的に不可能であり、自前主義で頑張りすぎるとスピードで負けてしまいます。また、技術の流行り廃りも激しくなりました。正しい(と自分たちが思う)技術が生き残るとは限らず、使われている技術が生き残るという現実もあります。利用技術が自分たちにとって好ましい方向に進化するとも限りません。
そのため、トレンドのキャッチアップやエコシステムとの協調は重要です。開発者イベントやコミュニティは、それらの雰囲気を感じ取るのに最適な場所であり、影響を与えるチャンスでもあります。
まずは、技術動向やトレンドをキャッチアップすること。それにより、技術選定の精度が高まり、ガラパゴスな技術スタックで自社開発が先細ってしまうリスクを低減できます。
そして、ゆくゆくはトレンドやエコシステムに影響を与えられるようになると良いでしょう。自分たちの開発が困らないよう、コミュニティと協調して技術進化の方向性をマネージできることが理想です。
それは、OSSや技術トレンドを作ったりコントリビュートしたり、ディスカッションしたりすること。それらについて、発信することです。実際、開発者イベントの「廊下」でOSS開発者が議論して開発方針が決まることもよくあります。
開発者コミュニティに自分たちの技術を還元することは、コミュニティからも好意的に受け止められます。これは次の「ファン」の項目にも関わってきます。
ファンを増やすことへの期待
開発者イベントでは、登壇やスポンサーをうまくやることで社の認知や好感度を大きく高められます。それらをやらずとも、参加している自社の社員が他社の社員と交流するだけでもそれらを高める効果が期待できます。近い職種同士だと話も弾みやすく、リアルな情報交換も行われやすい。そこで、会社の雰囲気や働いている人の人となりを知ってもらい、良い会社だと感じてもらうことは、非常に効果的です。
言ってしまえば、イベントの参加者は、潜在顧客だったり潜在的な採用候補者になりうる人たちです。その人達の好感度を上げることは、製品の購買や、将来的な人材採用に思ってる以上に効いてきます。潜在顧客であるかどうかは製品の特性にも寄りますが、特に、採用市場としては参加者は近い位置にいることは間違いないです。
実際、開発者はコミュニティづてで転職先を決める人も多いです。社員と直接のつながりが無くとも「コミュニティで良く名前を聞く評判の良い会社だ」と認知してもらえるだけで、その人が転職活動を始めた時に、転職先候補に挙げてもらえる確率が高まります。
閉ざされている会社より、開かれている会社の方が魅力を感じてもらいやすいのは当然のことです。
社外のコミュニティとつながること自体のメリット
前項で、わかりやすい期待を3点を挙げましたが、実は、社員が社外のコミュニティとつながる事自体、越境学習の観点から、本人と会社双方にメリットがあります。コミュニティとの触れ合いそのものは楽しいですが、それだけではない価値があります。詳しくは、以下のブログ記事が参考になります。
社員各々が、多様なコミュニティに接続されていることが大事です。それぞれの興味範囲のコミュニティに属し、知的好奇心を満たすことを会社が認めることが、モチベーション高く仕事をしてもらうことにも繋がります。
開発技術領域が細分化と同時に、コミュニティの細分化が進んでいる現状において、それぞれの社員が各方面に多様なコネクションを持つことは重要です。いわゆる「弱い紐帯の強み」における紐帯が各所に張り巡らされているイメージです。
ですので、自社の社員が、現在の社内の技術スタックとは直接つながりがない技術コミュニティに属することにも意味があります。その技術やコミュニティが長期的に役立つかもしれないし、役に立たなくても良い。実際に、コミュニティで仲良くなった人がリファラル採用につながるケースは頻繁にあります。
発信力を上げるメリット
イベントに参加する場合、能動的な発信、つまり、登壇ができると尚良いです。これは、会社と個人双方に大きなメリットがあります。個人側のメリットについては、以前私が書いた以下のエントリーに説明を譲ります。
会社側のメリットについて補足すると、社員の登壇は社の認知や好感度向上に何より効果的です。スポンサーと違って少ないお金で済みますし、参加者からの第一印象もスポンサーに比べて良い傾向にあります。登壇発表がイベントのメインコンテンツだからです。
登壇発表内容には「現場の生の声感」や「技術の面白さや楽しさ」などが盛り込まれていると魅力的になります。参加者もそれが一番有益だと感じているからです。オープンに率直にノウハウを出すことはコミュニティからポジティブに受け取られますし、その人や会社のスタイルや音楽性の共有にもなります。参加者に、そういう生の声に触れてもらい「自分とマッチしていそうだな」「この人と働きたいな」などの共感を得られば、転職先候補としても見てくれるようになるでしょう。
発表資料は、オンラインで公開すると良いでしょう。発表だけではせいぜい数百人の聴衆にしかリーチしませんが、オンラインに公開すれば、聴衆が拡散を促してくれて1万人以上にリーチすることもあります。会社説明や採用情報にも軽く触れられると効果的な広報活動になります。
ただ、企業色が出過ぎることは、特にコミュニティベースの開発者イベントでは、ポジティブに受け取られません。宣伝色が強すぎたり、メリットばかり強調するような過度なポジショントークをしてしまうのは逆効果で、折角の登壇機会を台無しにします。
イベントスポンサーを上手くやる難しさもこのあたりに起因します。以前ほど潔癖な雰囲気はなくなり、コミュニティに企業からスポンサーしてもらうことの重要性を多くの開発者が理解するようになりました。それでも、スポンサー登壇枠やブース出展では、商業色を出しすぎず、その場のコンテキストにあった発信をすることが好まれます。
この開発者コミュニティの雰囲気やコンテキストを理解することは、他職種からするとかなり難しいのではないかと感じています。これは、参加してもらって実際に体験してもらうのが効果的です。開発者に限らず、経営者、人事や広報、マーケの人などにも参加してもらえると良いでしょう。
コミュニティ作りや運営に関わる
余力があれば、会社としてコミュニティを作りを支援したり、運営に関わったりする事も考えたいところです。CSR的な側面もありますが、これもまた、受動的にコミュニティに参加するだけではなく、能動的にコミュニティづくりに関わるほうが効果を大きくできる、という打算的な考えも裏側にあります。
ただ、このあたりを真面目にやろうとすると、金銭だけじゃなくて人的コストも結構掛かるので、小さい会社がそこにどれくらい踏み込むかは悩ましいのが実情です。ただ、コミュニティや場を作るのが好きな人・得意な人がいて、そういう人が社内にいる場合、動きを妨げないことは大事です。
私個人としては、コミュニティやイベントに参加して、発表させてもらうことが好きだし得意領域です。コミュニティ作りや勉強会運営などもやったことがありますが、個人的な志向としては、そこまで情熱や優先度が高いわけではありません。
なので、コミュニティ作りや運営をして場を提供してくださっている方々には本当に感謝しかありません。このあたりはお互いの得意領域を活かして持ちつ持たれつ、という話でもあるとも思っていますが。
両刃の剣になりうるコミュニティ戦略
ここまで書いたコミュニティ戦略は、コミュニティでうまく立ち回っている他社も同様に考えており、対称性があります。つまり、他社の参加者を我々が潜在採用候補だと見ているのと同様に、自社の参加社員が潜在採用候補だと見られているということです。
とはいえ、これはそういうオープンな場での競争なので、場に出ていかないことには、会社の魅力付けで差をつけられ、ジリ貧になってしまいます。それに、コミュニティ戦略をうまくやっている会社はごく一部ですし、そこをそれほど重要視していない会社もあるでしょう。なのでちょっと丁寧に立ち回るくらいで悪くないポジションが取れます。
ここの競争に負けないために、まずは、社員の自社へのエンゲージメントが高いことが前提になります。各人が自然と、適切な自社をアピールできるようになってもらうのが理想です。
なので、そういう場に快く送り出すことが大事です。例えば「休みを取って勉強会に参加しています」などの会話がなされると「えっ、あの会社ってそんなイケてない会社なのか」と受け取られてしまうリスクもあります。愚痴や不平不満を撒き散らされるともっと困ります。
会社と社員双方のメリット
社員のコミュニティ参加に対する会社からの支援においては期待値調整が大事です。
会社としては、個人が期待する「当たり前水準」を認識しつつ、スタンスを示すことが必要です。例えば、前項で書いたように、業務扱いでコミュニティの勉強会に参加できることが「当たり前水準」になってきていることを会社側が受け止め、どういうスタンスを取って説明するか、という話などです。「海外カンファレンスの渡航費を支援して欲しい」という期待値がある時に「今はまだそこに投資はできない」という説明をするといったことです。
社員個人側も、会社と社員がWin-Winであるかどうかを意識できると良いでしょう。業務に関係ない技術領域のコミュニティに出ていくことも無駄ではない、という話はしました。ただ、それを濫用し、業務に直接関係ない領域のコミュニティに、業務に支障が出るレベルで頻繁に参加するのは困りものです。
社員が、与えられた状況を享受するだけではなく会社側のメリットも理解できるようになれば、例えば「会社にこういうメリットがあるからこのカンファレンス渡航費を支援して欲しい」といった交渉もできるようになります。
コミュニティ参加は自発的にされてほしいし、過度に縛りは設けたくありません。縛りを設ければ設けるほど、ここまで説明してきたような効果が薄れてしまうからです。性善説前提で、それぞれが節度を持って自治することが望ましいです。もちろん何が濫用なのかは、それぞれ考えがあるので、期待値調整が必要です。
何にせよ、お互いのメリットになるように期待値調整していかないと、持続性に欠けます。ただ、短期的な結果を求めない自発的な活動であることが前提なので、コミュニティ活動を通して、短期的に会社へのリターンを持ち帰られないことに対して重く受け止める必要はありません。
とはいえ、その辺のしがらみなく、気楽に参加したいこともあるでしょう。なので、敢えて個人の予定としてコミュニティに参加することもあっても良いと思いますし、私もたまにやります。ただ、それらもあまり変に考えすぎずに、業務の一環として参加して良いとは思っています。
まとめ
開発者イベントやコミュニティ参加に関する意義を私なりにまとめてみました。これらの前提を踏まえ、社内で制度設計をしているところです。この内容自体は、汎用的なものなので他の方の参考に慣れば幸いです。
また、ヘンリーは、開発者やその他職種を絶賛募集中です。カジュアル面談も実施していますので、興味のある方は是非連絡してください。お待ちしています。